利用規約の作成のポイント~基本編~
利用者の特徴をつかむ
誰が利用するかわからないインターネット
契約書の作成といえば行政書士の専門業務なのですが、契約書の書き方とWEBサイトの利用規約の書き方とは似ているようで実はかなり異なる部分があります。
その一番の例が、WEBサイトの利用規約は不特定多数の人たちの目に留まるということではないでしょうか。
契約書は基本的には(例外も多々ありますが)1対1で交わす約束事を記したものですが、WEBサイトの利用規約は大人数との間で交わす約束事だということです。
自分のWEBサイトを訪問する訪問者は人気のあるサイトでは一日に数百とか数千に上るでしょう。 その訪問者一人一人をWEBサイト管理者が把握している ことはまずないと思います。 どこの地域や国から、どのような世代、性別、どのような目的で自分のWEBサイトを訪れているのかについて全部を把握するこ とはまったく不可能です。
日本国外に住んでいる人がそのWEBサイトを利用して買い物をして、その国の法律に基づいて何らかの法的手段に出てくる可能性だってありますし、ひょっとするといたずらやクレーム目的でそのWEBサイトを訪れる可能性だってあるわけです。
会員制サイトのように会員以外の閲覧ができないようになっているものを除くほとんどのWEBサイトはサイト訪問者がサイト内のコンテンツを自由に閲覧する ことが可能になっています (厳密にいえば会員制サイトもログイン画面までは訪問者が自由に閲覧が可能ということになりますが・・・)。
訪問者が自由に閲覧ができるということは、「誰が訪れるかわからない」状態ということになります。
誰が利用しているかわからないパソコンやスマートフォン
特に会員制WEBサイトやポイント制WEB サイトのように会員IDやパスワードを利用者に与えて利用させるWEBサイトのような場合、その会員IDやパスワードは登録をした「個人」に対して発行 し、その個人のみが会員向けのサービスを利用できるという仕組みになっているかと思います。
ところが、パソコンや携帯などの接続環境によっては、その大前提が成り立たないことがあります。
たとえば、会員が会員IDやパスワードを「キャッシュ」を利用してPCに保存し、次回ログイン時に会員IDやパスワードの入力を省略しているような場合を考えてみましょう。
その会員がそのPCのログインにパスワードを設定していなかった場合や、パスワードを設定している場合でもログオフしないでPCから離れた場合、会員では ない第三者がそのPCを利用して会員制サイトを閲覧し、ポイントを使用してお買い物をする・・・、ということだってありえる話なのです。
そのような場合、会員が減ってしまったポイントについて、そのサイトの運営者にクレームをしてくることも十分考えられます。 そのようなクレームに対してどのような解決策が考えられるでしょうか?
利用者を分類する
以上のようなWEBサイトの利用者、訪問者の特徴を踏まえたうえで、ここからはさまざまな規約を作成する上でのポイントについて考えてみましょう。
先述のようにWEBサイトの利用規約においては、どこの何者かも把握できない訪問者を相手に、運営者が定めたルール(規約)に同意してもらい、守ってもら うよう仕向けることが非常に重要なことです。 しかしながら、そのどこの何者かもわからない訪問者だけをターゲットに規約を定めても具体的な取引が生じる 場合にはリスクだらけになってしまいます。
このような矛盾を解決させるために、まず訪問者をそのWEBサイトの利用の度合いに応じてグループ分けすることから考えてみましょう。
訪問者のグループ分け:閲覧者・利用者・会員
WEBサイトに訪問する訪問者をいくつかのグループに分類すると一般的には以下のようになると思います。
- 閲覧者
- 利用者
- 会員や購入者
- プレミアム会員や有料サービスを利用する会員
まず閲覧者は「WEBサイトを訪問し、文章を読んだり、画像等を見るだけで帰っていく人たち」のグループです。
次に利用者は「WEBサイトを訪問し、文章を読んだり、画像等を見るだけでなく、たとえばメールフォームを利用してお問い合わせをするなど、サイト内の仕組みを利用する人たち」のグループです。閲覧者よりは人数が制限される場合がほとんどだと思います。
利用者はサイト上の何らかの仕組みを利用する形になりますので、その仕組みを利用する際の利用条件など(たとえば問い合わせフォームを利用する場合には「個人情報の開示についての同意」など)について同意を得る必要があります。
会員制サイトの会員やネットショップの商品購入者は、利用者の中で「運営者からIDやパスワードをもらって会員向けサービスの利用を許可された者」ということになるかと思いますので、利用者よりもさらに人数が限られる形になります。この会員や商品の購入者には、サイトの仕組みを使う、ということのほかに「会員や購入者として」守るべきルールを提示し、それに同意してもらう必要があります。
会員の中でも特殊なサービスを利用することができる会員は、上に記載の「会員」よりもさらに人数が限られます。これらのユーザーには、この特殊なサービスを利用する場合の利用条件(たとえば有料サービスを利用させる場合には決済方法や有料サービスの有効期間など)などを上書きしなければなりません。
役割を分担した複数の規約の準備
このように訪問者をグループ分けした理由は、必要とされる規約がそのグループごとに異なるからです。
まず閲覧者にもっとも守ってもらいたいルールというのは著作権に関することではないでしょうか。 転載や引用についての考え方等を規約で閲覧者に納得し てもらう必要があります。 そのほかにも万が一訴訟ごとになってしまったときのために管轄裁判所についても運営者にとって近い場所に設定して納得しても らったほうがよいのではないでしょうか。
WEBサイトの閲覧者にこれらのことを認めさせた上でそのWEBサイトを閲覧してもらうためには、それにあわせた利用規約の書き方が重要になってきます。
続いて、利用者については、もう少し具体的な内容に合意してもらう必要があります。 たとえばサイトの利用に際し禁止事項を定める、「そのWEBサイトの システムを利用したあとに利用者のPCが故障してしまった」などというクレームに対する免責(逃げ道)規定を設けておく、などの処置が必要になるでしょ う。
最後に会員制サイトの会員やポイント制サイトのポイント利用者など、利用者よりもさらに 具体的な「取引」が生じる場合、会員の権利・義務や利用できるサービスについて、そのポイントを使用してどのようなことができるかについて等、さらに具体 的な内容の規約に合意してもらう必要が生じます。
このようにWEBサイトの訪問者の利用の度合いに応じて必要とされるであろう規約も異なってくることが考えられます。
ですから、たとえば会員制サイトの場合、利用者と閲覧者に対する「利用規約」と会員への具体的な取引内容を定めた「会員規約」というように、複数の規約を別々に準備して、それぞれの規約で役割分担をさせて、グループごとに異なるリスクを軽減することをわたくしはお勧めしています。
そのためには、それぞれの役割にあった規約の書き方や条文の準備の仕方というものが存在するのです。
グループ毎に必要な条項を考える
閲覧者用の利用規約に必要な条項
あなたのWEBサイトをただ見て去っていく「閲覧者」に対して守ってもらわなければならないルールにはどのようなものがあるでしょうか? ここでは閲覧者向けの規約で定めたほうがよいと私が考える項目を挙げてみたいと思います。
- 著作権の所在、情報・画像等の転載の可否についての条項
- 合意管轄と準拠法についての条項
- 未成年者に対する宣言
こんなところでしょうか。 商品等の宣伝やお問い合わせなどを受け付けたり、宣伝目的で設置しているWEBサイトの場合には、これらにプラスで「サービスの一時停止や終了」についての条項もあったほうがよいかもしれません。
それぞれについてみていくと、サイトを訪れるだけで去っていく「閲覧者にされては困ること」の一番は「情報を勝手に他サイトに転載してしまうこと」「情報を勝手にプリントアウトして大勢に配布してしまうこと」ではないでしょうか? これに対して閲覧者側の言い分としては「ネットに掲載しているということはみんなに見てほしい、利用してほしいからなんでしょ? だからどう使おうが勝手でしょ?」というものでしょう。 この問題は、サイト管理者が情報をネットに公表したときに情報利用についての「黙示の許諾」があるか、ということなのですが、これについて経済産業省の「電子商取引等に関する準則(別窓表示)」では以下のように述べています。
インターネットサイト上の情報利用に関しては、著作物の権利者が、だれでもが無償で自由にアクセスできるサイト上へ情報を掲示した場合には、当該サイトにアクセスする者すべてが自由に閲覧することを許容しているのであるから、サイト上の情報をディスプレー上ではなく紙面上で閲覧するためにプリントアウトするという複製行為については、禁止する旨の特段の意思表示がない限り、原則、権利者から黙示の許諾があると認められる場合が多いと考えられる。・・・・。
簡単に言えば「ログインパスワードなどをかけずに誰でも閲覧することができるサイトの情報は「複製や転載を禁止する」旨の明示がサイト上でなされていなければ、「自由に情報を使ってもいいよ」と言っていることと同じことになる、ということになるかと思います。
つまりこのようなサイトで情報の無断複製を禁止する場合、「無断転載・複製の禁止」を規約などで定めていなければ、著作権侵害などを主張しにくくなってしまうということになるかと思います。
次の「合意管轄裁判所と準拠法に関する条項」については、閲覧者に対して、「このサイトにかかわることで裁判を起こすんだったらここの裁判所で争うことになるからな」という宣言をすることになります。 もしこの条項がないと下手をするとものすごく遠くの地で裁判を起こされ、そのたびに裁判所まで交通費をかけて出向かなければならなくなる可能性もあります。 特に海外への発送なども行うネットショップについては絶対にあったほうがよい条項です。 この条項について、閲覧者の同意が必要となりますが、この閲覧者への規約の同意のさせ方については規約の設置方法の箇所で詳しく述べたいと思います。 また、未成年者についての条項についても、この規約の設置方法の箇所で詳しく述べたいと思います。
利用者向けの利用規約に必要な条項
次に利用者(WEBサイトを訪問し、文章を読んだり、画像等を見るだけでなく、たとえばメールフォームを利用してお問い合わせをするなど、サイト内の仕組みを利用する人たちのグループ)については、
- 閲覧・利用の自己責任原則、保証の否認についての条項
- サイト内プログラム、ソフトウェアなどの正しい利用方法での利用
などの条項に同意してもらったほうがよいかと思います。
このうち「閲覧・利用の自己責任原則、保証の否認についての条項」については、たとえば「お前のサイトを見てからPCがおかしくなった。 お前のサイトにウィルスが入っていたせいだ。」というようなクレームに対する条項です。 ありえない話ではないでしょうし、一見さん(少ししか閲覧しないような人)のほうがこのようなクレームをいってくる可能性が高いので閲覧者向けの規約にあってもよいのですが、サイト内のCGIやPHPなどのプログラムを使用する「利用者」向けには確実にあったほうがよい条項といえます。
サイト内プログラム等の不正使用を防ぐための条項もあったほうがよいでしょう。 というのもたとえば利用者がハッキング行為をしたせいでプログラムを壊してしまったり、そのせいで他の利用者に迷惑をかけてしまったりしたときに、その不法行為者に責任を負わせるためです。
会員など「お得意様」向けの規約に必要な条項
会員制サイトの会員やネットショップで商品等を購入する「顧客」に対してより細かな条項や内容に同意してもらう必要があります。 詳しくは各項目をご覧ください。
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(受付時間 平日9:00~17:00)
利用規約の作成のポイント~実践編~
フローチャートを作成する
利用規約を作成する上でのポイント、実践編ということで、このページでは、当事務所で利用規約を作成する場合、またはリーガルチェックを行う際に必ず行っている手法としてサービスに係るフローチャートを作成する方法をご紹介します。
ネットショップを例としてあげると、購入者による申し込みから商品の配送の完了までをフローチャートにしてみる、というのがその方法です。
ネットショップのフローチャート
- 購入者による売買契約の申し込み
- 販売条件・売買契約の成立
- 代金の支払い
- 商品の配送
- 返品・返金、商品に欠陥があった場合
- 売買契約の解除
- 損害賠償
ネットショップの取引に関するフローチャートはこんな感じでしょうか。
次に、このフローチャートを元にどのようなリスクが考えられるか、書き込んでいきましょう。
ネットショップに潜むリスク
- 購入者による売買契約の申し込み
申し込み内容に欠如や虚偽があった場合の対応は?
海外からの申し込みに対する対応は?・・・・など
その他、申込をお断りするケースは? - 販売条件・売買契約の成立
送料・手数料などの負担は?
売買契約はいつ成立する?
電子メールで通知を送った場合、相手に届かなかった場合は? - 代金の支払い
送料はいつ支払う?
入金がなかった場合の対応は「契約解除」?
何日間入金がなかったら上の対応をする? - 商品の配送
発送はいつ行う?
海外への配送は?
購入者が入力した住所等に不備があった場合は?
発送した商品が戻ってきた場合の対応は?
・・・・など - 返品・返金、商品に欠陥があった場合
返品・返金は認める?
クーリングオフは?
商品に欠陥があった場合の対応は?
欠陥のあった商品を交換・返送・再配送する場合の費用負担は?
・・・・など - 売買契約の解除
購入者による契約解除は認める?
認めるとすればどの段階まで?
(例:「商品発送後の解除は認めない」など)
「当社」からの解除事由は?
・・・・など - 損害賠償
購入者による損害賠償請求をされた場合の対応は?
購入者による損害賠償の際の損害賠償限度額は?
・・・・など
主なものをざっとあげてみただけでもこれくらいは出てきます。
つまり、これらのリスクについての条文は最低限必要だということになります。
ただ、規約にする場合にはこのフローチャートをベースとして、その他にたとえば「自己責任原則」、「期限利益喪失」、「個人情報利用」、「通知手段」なども定めていきます。
このほかに、前のページで説明した、閲覧者などに対して提示する条文(合意管轄や保証否認など)も必要になるということになります。
特に「通知手段」については迷惑メールフィルタやドメイン指定といった、購入者側のPCや携帯端末などの設定によって不達が起こりえます。それに対する免責をどのように定めるかは大変重要な問題です。通知手段については後で解説します。
フローチャートはサービスごとに異なるもの
上では通常のネットショップを例にあげて、フローチャートの作り方、リスクのあぶり出し方法を説明しましたが、これが同じネットショップでもたとえばポイント制を導入するネットショップや会員制ネットショップ、定期購入を導入しているネットショップでは、できるフローチャートも異なってきます。
特に定期購入を導入している場合には1度の申し込みで複数の注文・売買契約が成立する形になりますので、中途での解約(それができるかどうかも含め)や返品などについてしっかりとした取り決めをしたうえで、サイト上でもわかりやすく説明するなど、トラブルが起こりにくくする必要もあるのではないかと思います。
少し話が横道にそれましたが、サイト・サービスごとのフローチャートは、口コミ板や会員制サイトなど、ネットショップ以外の分野が異なるサイトではまったく異なるものができあがるはずです。
フローチャートが異なるということは、当然浮き上がってくるリスクも異なってくる、ということになります。よって、サイトごと、サービスごとに異なる利用規約が必要だということがここでも立証されたのではないかと思います。