利用規約とは?
利用規約は契約書の一種です。契約書は一般的に限られた契約当事者の間(二者間や三者間)で交わされるものに対して、規約や約款はとある事業者がサービスの提供にかかる取り決めごとを不特定多数のユーザーやクライアントに提示して、それに同意してくれた者との間で利用契約を締結する形のものが一般的です。
おおまかに何が違ってくるかというと、契約書の場合には契約当事者双方が契約時に同意した内容を書面として残しておくという側面が強いため、たとえば一方が「この条件で契約してくれませんか?」という内容について、その相手方が「いやいや、こういう条件ではどうでしょう?」という代わりの条件を提示して、それに相手が同意すれば新たな条件が契約書に記載される形になります。
なので、契約書はたとえ「これで契約してください」と相手方に提示したとしても必ずしもその条件が変更なく通るということは(規約や約款に比べて)少ないということになります。
他方、利用規約や約款の場合には、不特定多数に同一の契約条件を提示して、「極端な話ですが」これに同意してもらえないならサービスを利用してもらわなくて結構です、ほかのユーザーを探しますから」というスタンスで契約者を募集する形になります。
そういう意味では利用者を大勢探すことのできるWEBサービスやアプリ、施設設備の利用の際の注意事項を定める場合の最も適した契約形態ではないかと考えられます。
本記事には本サイトの前身になる旧「ネットショップ利用規約作成室」のサイトオープン(2009年7月)の際に私が作成したコンテンツが含まれています。
まだWEBサービスの黎明期ともいえる時代に「オリジナルの利用規約を準備する必要性」について記載したものですが、現在は「オリジナルの利用規約を作成する」ということについての理解もこの当時よりははるかに進んでいるかと思います。
ですが、たとえば民泊やWEB宅配予約、タクシー配車アプリなどのように現在展開しているWEBサービスは単なるWEBサービスにとどまらず現実の社会での契約にも影響を与えるものも少なくありません。
なので、利用規約を作成する重要性はこの当時とは比べ物にならないほど大きくなったといっても過言ではありません。
そういう意味では「他のサイトやサービスの利用規約をコピーペースト」したり、「それらをまねして自分で利用規約を作成する」ということは以前にも増して難しいものとなってしまったのではないかと思っています。
利用規約を作成する目的(旧コンテンツ)
インターネットはPCの前にいながらにしてさまざまなものをもたらしてくれます。
たとえばネットショップはPCで簡単な操作をすればわざわざ近所のお店に行かなくてもほしいものが手に入るという大変便利なものです。また口コミ板などでは自分がほしいと思った情報を誰かが提供してくれていたり、自分が思ったことを提供したりすることもできます。
また、近年では様々なサービスをWEB経由で提供するサイトやアプリも多くあります。
インターネットはこのように便利で快適な生活をわたしたちにもたらしてくれる反面、その便利さゆえに使い方を誤ると大変危険なものともなってしまいます。 その危険性を少しでも軽減するためには「利用規約」という契約書をサイトの見やすい箇所に設置する形で一定のルールを設ける必要があります。
普段の「契約」でトラブルがおきにくいワケ
とはいうものの、普段わたしたちが生活している中で、契約書を交わして物を売買する、という機会はめったにないのではないでしょうか? 契約書を交わして取引するような場合は、たとえば車を買ったときだとか家を買ったor借りたなどのように、大きなお金が動いたり、長期にわたって使用することが明らかな場合に限られるのではないかと思います。
ところが、たとえば普段の食料品を買う場合にも実際に契約書は交わさなくても売買契約は成立しています。 しかし、このような契約書を交わさない契約であっても、トラブルがおきにくいのにはいくつかワケがあります。
- 商品等の価格が低い。
- 送料や振込手数料などが生じない。
- 客が商品等をよく吟味してから購入する。
- 店(販売者)が不審にみえる客には販売しない。
- 実際にトラブルが起こりそうになるが、お互いが誠意を持って解決している。
このうち一番目と五番目はネットショップなどのインターネットを介した商取引でもトラブルが起こりにくいのですが、取引が遠隔地で行われる場合が多いことから、二番目の料金等を誰が支払うか、また三番目と四番目ができないこととがインターネットを介した商取引でトラブルの原因となる場合が多いのではないかと思います。
ネットショップの欠点
ネットショップは、PCや携帯端末などでサイト内の商品の写真や内容説明などを見て買い物をするわけですが、その際もっとも問題となりやすいのは実際に届いた商品が「写真や内容説明と異なっていた」という場合ではないでしょうか? その問題が起こる最大の原因は、先ほどの「客が商品等をよく吟味してから購入する。」ということができないことにあります。
しかも、気に入らないからキャンセルして返品・返金しようと求めたとしても、じゃあそこで生じる送料、手数料はどうするの?という問題が新たに生じます。
逆にネットショップの運営者側からみてみると、お客さんが商品を購入してくれたので送付したら、実はその相手が未成年者でしばらくしてから「契約を取り消したので代金等を返してください」などといわれる可能性もあります。 実際にお客さんに会ってお客さんの顔・態度をみて「あっ!この人はひょっとすると未成年?」となっていれば状況も変わるのでしょうが、お互いの顔の見えないネットショップではそういうわけにもいきません。
リスクの消去
利用規約を作成する目的はそのようなお互い顔が見えないことなどの遠隔地間での取引に伴って生じるさまざまな不便や障害を少しでも軽減することです。
あらかじめ起こりうるリスクに対してある程度の言及ができれば、実際にそれに関するクレームなどがあった場合に相手を説得する材料となります。
また、トラブルが実際に起こってしまった場合の対応についても事前に言及しておくことで、今後のトラブル回避にも役立ちます。
たとえば会員制サイトなどで、クレームなどをしてきた客でどんなに誠意をもって対応してもこじれてしまったような場合(いわゆる「モンスターなんちゃら」ってヤツですか)、最終的にはそういった方には退場してもらわなければならなくなります。 そのような「退場」処分についても「規約に基づいて」行ったほうが確実です、というより規約に基づかなかったらさらにこじれる可能性だってあります。
ネットショップでも代金の支払い方法などの取引の重要部分についてショップの指示に従わないような場合にはその売買契約自体をキャンセルできるように規約で定めておけば、最終的にはそれをちらつかせて指示に従わせることも、本当にキャンセルすることもできるようになるのではないでしょうか。
このように規約を事前に準備することで、ユーザーの行動を制限するだけでなく、サイト運営者指針を示すことで自身の行動の幅を広げることにもつながるのです。
利用規約は自動車の保険と同じ
私は仕事柄ホームページ制作業者や買い物かごASP業者などと接することも多いのですが、そういった方々の中には、「利用規約なんてなくてもトラブルなんてめったに聞かないですし・・・」という方がまだ大勢います。
たしかにトラブルにまで発展するケースなんて、ごくまれなのかもしれません。 でもそれが「利用規約を設置しない理由」なのであれば、それは浅はかな考えではないかと私は思います。
そこでよく引き合いに出すのが自動車の例なのですが、自動車を運転していて「自分が事故を起こす」と思っている人も、周りで「あんた事故を起こすよ」という人もいないと思います。
でもみなさん何らかの自動車保険には入っていますよね。 もし事故を起こしてしまったときの事を考えると、妥協点はあるにしても、できるだけいい保険に入っておこう、と考えるのが一般的ではないでしょうか。
利用規約も同じことだと私は考えています。
ところが
リーガルチェックをやっていて特に思うのは、利用規約に関していえばそれとまるっきり逆の発想で物事を考える人、つまりは「利用規約なんてあればいいや」「自分で作ればタダで収まるじゃん」と考える人があまりにも多いということです。
さらに問題なのは、安く仕上げるために自分で作成してみて「まぁそれなりのものができたな」と思っていても、それは我々専門家が見れば「問題外のもの」が多いということです。
場合によっては、「ないほうがまだマシなのでは?」と思うような物もあったりします。 このような場合は自動車の保険でいうなら「無保険で走っているほうがまだマシ」ということになってしまいます。 こんなことは自動車でいうなら考えられない「リスク」ではないでしょうか。
なぜ、「ないほうがマシ」な利用規約ができあがってしまうのでしょうか。 それは、みなさん「利用規約の作成」ということで法律の文章っぽく難しい言葉遣いで作成するせいで文章が複雑化してしまい、主語と述語が支離滅裂になってしまうからではないかと私は考えています。
このような場合には、アドバイスをしてあげたくても「意味がわかりません」としか書いてあげられません。
「意味が通じない」ということは、「ないほうがまだマシ」ということです。
たしかにネットビジネスにおいては、まだまだ「事故」は少ないのかもしれません。 ただし、それは「今はまだ少ない」のであって、今後もこのネットの利用者は増え続けるものでしょうから、人が増えるということはトラブルも増えるということですから、今後は、もっとトラブルが増えてくるのは確実なことなのではないでしょうか。
そのような時代に、「無保険」で突入していくのか、「ないほうがマシな保険に入っている」状態で突入するのか、それとも「万全の体制で」突入していくのかは、人それぞれだとは思いますが、せめてネットビジネスにいざなうホームページ制作業者などは、「いい保険に入っておいたほうがいいよ」と言ってほしいですし、そういう業者が選ばれるようになってほしい、というのが私の願いだったりします。
自分の権利や財産を守る(2018年追加記事)
利用規約を設置しなければならない理由は自分をトラブルから守るためだけではなく、自分の権利や財産を守るためでもあります。
たとえば、スマートフォン向けのゲームアプリを開発してそれを配布する場合を考えてみましょう。
スマートフォン向けアプリの多くはユーザーの所有物である端末にインストール(日本語で書くと「複製」になります)されて利用されます。
極端な話ですがユーザーの所有物の中に入り込めばどんな使われ方をされるのかわからない形になってしまいます。
そのため、「アプリをこんな風に使ってくださいね、こんな使い方はしないでくださいね」という取り決めごとをしっかりとしておかなければ、たとえば解析ソフトと一緒に使用してアプリのソースコードを不正解析されたりという不利益を被ることになります。
このアプリの使用条件などを定める規定がライセンス規定ということになり、そのライセンス規定を活かすためにはそのアプリの著作権の所在に関する規定をしっかりと定めておく必要があります。
WEBサービスでも同様で、たとえば投資やビジネス関連などのノウハウ提供サイトでいえば、そのノウハウを教えたユーザーがブログなどでそれを公開してしまったらそれはもうノウハウではなくなってしまいます。
そういった行為を防ぐためにノウハウの使用に関してしっかりと取り決めごとを定めておく必要もあります。
このように、利用規約では自分の権利や財産を守る規定を定めておくこともとても重要なことになります。
証拠としての利用規約
利用規約はリスクを軽減する条文の組み合わせで出来上がっています。 ですから、利用規約はリスクを軽減する目的で設置するものです。
ところが、利用規約には、「証拠」として裁判などの際に役立てるという意味あいももっています。 それを示す例をひとつ挙げてみましょう。
「消費者保護制度」を悪用した「詐欺」にご注意!?
先日、お客様から「最近PAYPALの『自動返金制度』を利用した詐欺事件があるようなのですが、自分の利用規約でそのリスクは回避できますか?」というお問い合わせをいただきました。
詳しく聞いてみると、ネットショップで買い物をして、決済方法としてPAYPAL(世界中で活躍するオンライン決済代行会社のような会社です)を利用した顧客が、後日「購入した商品が届かないから売買自体をキャンセルしたい」とPAYPALに申し立てると、PAYPALのほうで無条件で契約をキャンセルにして顧客に返金してしまう、という話がある、というものでした。
わたしのほうで、PAYPALのサイトを訪れて、規約やガイドラインなどを見ましたが、たしかにPAYPALには消費者保護プログラムというものがあって、消費者(ここでいうと顧客側)を不当な取引や請求から守るという制度が存在することがわかりました。
しかし、PAYPALの規約やガイドラインに書かれている内容は、このお客様のいうような「無条件での返金やキャンセル」という「理不尽なもの」では到底ないのでは?とわたしは感じました。
逆に、
売り手がお客様の住所に商品を発送したという証拠を提示した場合は、お客様が商品を受け取っていない場合でも、売り手に有利な判定を下すことがあります。(PAYPAL買い手保護プログラムに関するポリシーより抜粋)
とあるように、きちんとネットショップ側で発送を証明する資料や、取引内容について規定した利用規約を証拠としてPAYPALに提示できれば決してネットショップにだけ著しく不利な裁定を下すわけではない、ということもわかりました。
以上のことから判断すると、多くのネットショップがPAYPALからの証拠の提示に応じられなかったか、又は提示した証拠がPAYPALが期待する内容のものではなかったために、消費者に一方的に有利な裁定を下した、というのが真実なようです。
原因はネットショップオーナーにある場合も
このような消費者保護制度を導入しているのはPAYPALだけではないと思います。 ただ、PAYPALは世界中で活躍する決済代行会社ですから、アメリカやヨーロッパといったオンライン取引の先進国のルールに従った商取引を行っているので、日本のネットショップの商取引に対する考え方、規約に対する考え方では通用しない部分が目立ってしまうのだと考えられます。
上の顧客からのクレームについても、大部分は故意によるものではない苦情だとは思いますが、中には、このような日本のネットショップの規約や取引に関する脆弱性を知りながら悪用する輩もいないとは限りません。
ただ、このような制度を悪用する輩がやりたいようにできるのも日本のネットショップオーナーのリスクに対する認識不足という現実があってこそだと思います。
いずれにしても、嘆かわしいことではありますが、ネットショップを経営するオーナーさんにこのようなリスクに対する危機感が薄いということがこのような都市伝説のような事態を招いている可能性が高いかと思います。
利用規約の著作権について
サイトやサービスごとに利用規約を準備しなければならないということにはご理解をいただけたのではないかと思いますが、ではその利用規約を他サイトなどのコピーペーストで作成しても問題ないのか、ということについてここからは述べていきたいと思います。
ですが、その前に「コピーペースト」する場合でもそのコピーする利用規約に「著作権」が存在している場合には無断で転載などをすると著作権侵害などで訴えられる可能性もあります。
なので、利用規約に「著作権」という概念が存在しているかどうか、ということは非常に重要な問題になります。
旧サイトのコンテンツでは「利用規約には著作権が存在する」という私の「考え」を掲載しているのみでしたが、近年になって裁判所が利用規約の著作権について判断をしましたので、こちらを紹介したいと思います。
平成26年7月30日の東京地裁判決(裁判所WEBサイトの判決文(PDF)にリンクしています)で、利用規約のコピーペーストをしていた事業者に対してその利用規約の使用(正確には文言の使用)を差し止めする、というものでした。
その判決文を簡潔に要約すると、
- 利用規約や約款の条文などの多くはサイトやサービスのリスク軽減のためにある程度定型文化されたものも多く、それらについては著作権は認められない。
- ただ、そのサイトやサービス特有のリスクなどを軽減するため、その利用規約の作成者が創意工夫して作成した条文については著作権は認められる。
ということになります。
ここで定型文化された条文とはたとえば合意管轄や規約の変更などの一般的なサイトやサービスなどで使用されている条文などが該当することになろうかと思います。
- 本規約に関連して、ユーザーと当社との間で紛争が生じた場合、双方は、ともに誠意をもって協議するものとします。
- 双方は、前項により協議をしても解決しない場合、当社の本店を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに予め同意するものとします。
- ユーザーは、本規約およびガイドライン等が日本法に準拠して解釈されることに予め同意するものとします。
- 当社は、ユーザーに対して、事前に何らの通知を行うことなく、本規約を変更できるものとします。
- ユーザーは、本サービスを利用するごとに本規約を確認するものとします。当社は、本規約の変更後、ユーザーが本サービスを利用したことをもって、当該ユーザーが本規約の変更を確認し、同意したものとみなすことができます。
私は大学教授や弁護士ではないので、この判例について解説をする立場ではありませんが、長年様々なクライアントの難しい利用規約の作成などを手掛けてきた人間として、「著作権」という権利自体が「人の創作活動によって創作されたものに対して付加される権利」であることを考えると、そのサイトやサービス独自のリスクを軽減するためにその運営者が(おそらく)苦心して作り上げた条文に対しては著作権が存在するという至極まっとうな判断をしているのではないかと考えています。
かくいう私もその多くのクライアント様のために作成してきた利用規約のほぼすべてで「このサイト(サービス)ではここのリスクをなくすためにこういう考えのもとでこういう条文を作ったんだよな」というものがありますので、そういった苦労して生み出した条文それぞれに著作権が存在しているという判断をしてくれていることをうれしくも思っています。
また、当事務所にて作成した利用規約はこれまでの様々なサイトやサービスのために工夫やノウハウをしてきた経験が豊富にありますので、たとえば「考えているサービスにはこんなリスクがあるんだけど、どういう条文にしたらいいだろう?」というようなことがありましたら、当事務所では「個別の条文の作成」という特殊なサービスも実施しておりますのでお気軽にお問い合わせください。
行政書士塩坂壇事務所に利用規約の作成について問い合わせてみる
(受付時間 平日9:00~17:00)
利用規約は他サイトのコピーペーストで問題ないか
利用規約には一般的な条文には著作権はない可能性が高いということ、サイト独自の特殊な条文には著作権が存在するかもしれないことを上記で説明しました。
ということは他サイトやサービスの利用規約をコピーペーストで作成しても「著作権侵害」になる可能性は(少なくとも規約全部をコピーペーストでもしない限り)低いのでは?という考えが起きてもしかるべきかと思います。
ですが、著作権侵害という問題はクリアできたとしてもそれでコピーペーストで「リスクの少ない」利用規約が出来上がるのか?というとはなはだ疑問です。
というのは、コピーペーストで作成した利用規約の条文が本当にそのサイトやサービスに沿った内容であるかどうかということのほうがより重要なことだからです。
そのサイトにあった規約を準備できるか?
利用規約を作成する目的は前述のとおり、サイト内や事業を行っていく上で生じるリスクを未然に回避するというものです。
ですから、そのサイト、事業形態にあった規約を準備できなければ、仮に規約があったとしても逆にその規約が自分のサイト、事業の首を絞めていくことになりかねません。
しっかりした規約=有益とは限らない
たとえばほぼ同じ業種の、取り扱っている商品もほぼ同じ大手サイトの利用規約を流用したとします。 大手サイトですからしっかりした規約を弁護士や行政書士に依頼して作成している可能性が高いでしょうから、規約の条文などにも信頼性があるでしょうし、扱っている商品も同じであれば大きな問題もないはず・・・と考えるのはある意味当然ではないでしょうか。
しかしそこには大きな落とし穴が待っているかもしれません。もしも流用元の大手サイトがクレーム対応でどんなことでも自分たちが損をしても顧客のいうことを聞くように規約を設定していた場合、流用した自分の会社やお店の体力をどんどん消耗していってしまう可能性だってあります。 まったく逆の規約を流用元が設定していた場合は流用した自分たちが顧客からの信用を失っていくことになるかもしれません。
大手のサイトなどの場合にはやり手の顧問弁護士がついていて多少のことならその弁護士に丸投げして・・・なんてドラマのようなことが実際にもあり得ない話ではないので、もしそのような場合にはその顧問弁護士だからこそクレームを解決するすべを持っている(逆にそれをまねした運営者にそれが解決できるのか・・・?)という事態になってしまう可能性もあります。
重要なのは自分のサイトに合っているかということ
逆に経営規模や展開形態の似たような(似たようにみえる)会社で、取り扱う商品などがまったく異なる場合、その規約を流用できるでしょうか?
答えは「NO」です。 たとえば小瓶に入ったサプリメントを販売するネットショップ、パンなどの食品を扱うネットショップ、ガラス細工などを扱うネットショップの3つがあったとします。 これらの3種類のネットショップに潜んでいるリスクは同じでしょうか? 配送方法や支払いについてのリスクはさほど変わらないと思いますが、瑕疵担保(欠陥品などについての取り扱い)や返品、返送等についてのリスクとそれに対する条文はまったく異なるはずです。
このように、もし他サイトの規約の条文をコピーペーストで用いる場合にも、実際に自分のサイトできちんと機能してくれそうかどうかについて考える必要があります。 しかし、他サイトの利用規約をコピーペーストする場合には、次のようなリスクを背負うことになるかもしれないことを理解する必要があります。
重要な「対となる条文」を見落とすリスク
会員制サイトのID・パスワード管理の例
利用規約では、複数の条文でひとつのリスクを回避している場合があります。 よく引き合いに出すのが、「会員資格の管理」についての条文です。 たとえば、以下のような条文があったとします。
- 当社は、会員登録を行った利用者に対して、ログインID及びパスワードを発行します。 会員は、同ログインID及びパスワードの管理を自己の責任において行わなければなりません。
- 当社は、特段の定めがない限り、入力されたログインID及びパスワードが前項の登録されたものと一致することを当社が確認した場合、当該利用が会員本人による利用であるものとみなします。
私が会員制サイトの規約を作成した場合、この2つの条文だけではなく、別な条項でもっと突っ込んだ取り決めをする場合がほとんどです。
たとえば「免責」について定めた箇所で会員IDやパスワードの第三者利用についての「当社」の免責について定めたり、「会員資格の譲渡、貸与等」を定めた箇所で会員資格の譲渡・貸与を禁止する旨定めたり、「禁止事項と罰則」の箇所でIDやパスワードを譲渡・貸与した場合の罰則を定めたり・・・。
ネットショップの所有権移転時期の例
また、違う例として私が規約作成の依頼で体験した話をあげたいと思います。
私が初めてネットショップの利用規約の作成を依頼されたとき、そのお客様から次のような条文を加えてほしいと要望されたことがあります。 そのお客様は似たような商品を販売している他サイトにこのような条文があるから・・とおっしゃっていました。
この条文自体は最近では当たり前のようになってきた条文ではあるのですが、じつはこの条文だけでは大きなリスクが伴ってしまうのです。
実際わたしもこのお客様に「この条文だけではお客様が逆に大きなリスクを負うことになりますよ」とお伝えしました。 そうするとお客様はわたしにURLを教えてくれて「ここに出ているからそのようにしてほしい」とお答えになりました。(どのようなリスクを負うことになるのかについては「規約と法律との関係 その1」のページで)
その2~3日後、ちょっとした機会からわたしがとある大手ネットショップの規約から同じ条文を発見しましたが、そのサイトの規約にはわたしが先日お客様に「リスクだ」と伝えた箇所についてのリスク回避の条文がありました。
私はそのあとお客様から教えていただいたサイトの規約をもう一度見直しましたが、やはりその規約にはそのもうひとつのリスク回避の条文はありませんでした。
あくまでもこれは私の予想ですが、そのお客様から教えてもらったサイトの管理者が大手サイトの規約を見てこれは便利だと思ってコピーペーストしたのだと思います。
ところが、その対ともいうべき条文にまでは目が届かなかった、というのが真相ではないでしょうか(その大手サイトの規約は膨大なもので、上の条文とその対になる条文が別なページに書いてありました)。
結局、当然のことながらわたしはそのお客様の取り扱っている商品にあった形の「対になる条文」を作成しなおして上の条文とともにお客様の利用規約内に設置したのですが、そのときのお客様も「自分でコピペしていたらそんなリスクがあること自体考えもつかなかった・・・」としみじみおっしゃっていました。
このように、規約では、あるひとつの規定を補完する規定がまったく違う場所にある例が多々あります。それらを見落とすことで、逆にリスクを負ってしまうことも多々あります。
結局コピーペーストで規約を作成してよいのか?
私の考えですが、次のような条件がそろうのであれば、利用規約を作成する際、ほかのサイトの利用規約の条文をコピーペーストして利用規約を作成してもよいかと思います。
- コピーペーストしようと思う規約の持主(サイト管理者?)から許諾を得ている。
- 自身が法学部出身又は法律に詳しい知人から意見を聞くことができる
- 本人又は法律に詳しい知人がインターネットやコンピュータにも精通している。
- 条文の意味や目的、欠点等を理解し、欠点等に対応する条文を準備できる。
- 対応する法律等との整合を図ることができる。
あまり法律に詳しくないという人は、コピーペーストして規約を作成した場合にはできることなら法律に詳しい方、さらにはネットビジネスにも精通した方にチェックしてもらうようにしたほうがよいかと思います。
旧ネットショップ利用規約作成室の立ち上げ時には上記のように法律に詳しいなら自分で作成しても問題ないのでは?というスタンスではあったのですが、それから時間がたち、WEBサービスはますます複雑化、多岐にわたるようになった現在、自分で利用規約を作成するのは逆にリスクを増大させることになるケースも出てきたと言わざるを得ません。
たとえばGoogleアナリティクスを使ってアクセス解析をする場合やアドセンスを使ってサイト上に行動ターゲティング広告を表示する場合、Googleが「サイト上でGoogleの利用規約が適用になる」旨を記載するよう要求していたり、会員制サービスでもOPEN IDなどでログインをするケースなど、第三者のサービスやツール、システムなどを利用して自分のサービスを提供するケースが増えているため、それに対応する規約を準備する必要があったり、アプリ経由で提供するサービスの場合でも、「ではブラウザベースでの提供はどの程度までできるのか、ブラウザベースとアプリベースでの利用の関係性は?」といったように様々なことを考えなければなりません。
そのように「様々なことを考える」時に「法学的に」どのような権利義務関係になるのか?、どのようなトラブルが起こりうるのか、といったことをWEBサービスの観点、法的な観点から多角的に考えることのできる能力が要求されるのではないかと思います。
WEBサービスの利用規約の作成にはそういった能力に長けた専門家の助けが必須な時代になったのではないか、それが長年利用規約の専門家として様々なサービスが誕生するお手伝いをしてきた人間の実感です。