利用規約を設置する目的

 インターネットはPCの前にいながらにしてさまざまなものをもたらしてくれます。 その中でもネットショップはPCで簡単な操作をすればわざわざ近所のお店に行かなくてもほしいものが手に入るという大変便利なものです。 また口コミ板などでは自分がほしいと思った情報を誰かが提供してくれていたり,自分が思ったことを提供したりすることもできます。

 インターネットはこのように便利で快適な生活をわたしたちにもたらしてくれる反面,その便利さゆえに使い方を誤ると大変危険なものともなってしまいます。 その危険性を少しでも軽減するためには「利用規約」という契約書をサイトの見やすい箇所に設置する形で一定のルールを設ける必要があります。

普段の「契約」でトラブルがおきにくいワケ

 とはいうものの,普段わたしたちが生活している中で,契約書を交わして物を売買する,という機会はめったにないのではないでしょうか? 契約書を交わして取引するような場合は,たとえば車を買ったときだとか家を買ったor借りたなどのように,大きなお金が動いたり,長期にわたって使用することが明らかな場合に限られるのではないかと思います。

 ところが,たとえば普段の食料品を買う場合にも実際に契約書は交わさなくても売買契約は成立しています。 しかし,このような契約書を交わさない契約であっても,トラブルがおきにくいのにはいくつかワケがあります。

  • 商品等の価格が低い。
  • 送料や振込手数料などが生じない。
  • 客が商品等をよく吟味してから購入する。
  • 店(販売者)が不審にみえる客には販売しない。
  • 実際にトラブルが起こりそうになるが,お互いが誠意を持って解決している。

 このうち一番目と五番目はネットショップなどのインターネットを介した商取引でもトラブルが起こりにくいのですが,取引が遠隔地で行われる場合が多いことから,二番目の料金等を誰が支払うか,また三番目と四番目ができないこととがインターネットを介した商取引でトラブルの原因となる場合が多いのではないかと思います。

ネットショップの欠点

 ネットショップは,PCや携帯端末などでサイト内の商品の写真や内容説明などを見て買い物をするわけですが,その際もっとも問題となりやすいのは実際に届いた商品が「写真や内容説明と異なっていた」という場合ではないでしょうか?  その問題が起こる最大の原因は,先ほどの「客が商品等をよく吟味してから購入する。」ということができないことにあります。

 しかも,気に入らないからキャンセルして返品・返金しようと求めたとしても,じゃあそこで生じる送料,手数料はどうするの?という問題が新たに生じます。

 逆にネットショップの運営者側からみてみると,お客さんが商品を購入してくれたので送付したら,実はその相手が未成年者でしばらくしてから「契約を取り消したので代金等を返してください」などといわれる可能性もあります。 実際にお客さんに会ってお客さんの顔・態度をみて「あっ!この人はひょっとすると未成年?」となっていれば状況も変わるのでしょうが,お互いの顔の見えないネットショップではそういうわけにもいきません。

利用規約を作成する目的

リスクの消去

 利用規約を作成する目的はそのようなお互い顔が見えないことなどの遠隔地間での取引に伴って生じるさまざまな不便や障害を少しでも軽減することです。

 あらかじめ起こりうるリスクに対してある程度の言及ができれば,実際にそれに関するクレームなどがあった場合に相手を説得する材料となります。

 また,トラブルが実際に起こってしまった場合の対応についても事前に言及しておくことで,今後のトラブル回避にも役立ちます。
 たとえば会員制サイトなどで,クレームなどをしてきた客でどんなに誠意をもって対応してもこじれてしまったような場合(いわゆる「モンスターなんちゃら」ってヤツですか),最終的にはそういった方には退場してもらわなければならなくなります。 そのような「退場」処分についても「規約に基づいて」行ったほうが確実です,というより規約に基づかなかったらさらにこじれる可能性だってあります。

 ネットショップでも代金の支払い方法などの取引の重要部分についてショップの指示に従わないような場合にはその売買契約自体をキャンセルできるように規約で定めておけば,最終的にはそれをちらつかせて指示に従わせることも,本当にキャンセルすることもできるようになるのではないでしょうか。

 このように規約を事前に準備することで,ユーザーの行動を制限するだけでなく,サイト運営者指針を示すことで自身の行動の幅を広げることにもつながるのです。

利用規約は自動車の保険と同じ

 私は仕事柄ホームページ制作業者や買い物かごASP業者などと接することも多いのですが,そういった方々の中には,「利用規約なんてなくてもトラブルなんてめったに聞かないですし・・・」という方がまだ大勢います。

 たしかにトラブルにまで発展するケースなんて,ごくまれなのかもしれません。 でもそれが「利用規約を設置しない理由」なのであれば,それは浅はかな考えではないかと私は思います。

 そこでよく引き合いに出すのが自動車の例なのですが,自動車を運転していて「自分が事故を起こす」と思っている人も,周りで「あんた事故を起こすよ」という人もいないと思います。
 でもみなさん何らかの自動車保険には入っていますよね。 もし事故を起こしてしまったときの事を考えると,妥協点はあるにしても,できるだけいい保険に入っておこう,と考えるのが一般的ではないでしょうか。

 利用規約も同じことだと私は考えています。
 
ところが
リーガルチェックをやっていて特に思うのは,利用規約に関していえばそれとまるっきり逆の発想で物事を考える人,つまりは「利用規約なんてあればいいや」「自分で作ればタダで収まるじゃん」と考える人があまりにも多いということです。 

 さらに問題なのは,安く仕上げるために自分で作成してみて「まぁそれなりのものができたな」と思っていても,それは我々専門家が見れば「問題外のもの」が多いということです。
 
場合によっては,「ないほうがまだマシなのでは?」と思うような物もあったりします。 このような場合は自動車の保険でいうなら「無保険で走っているほうがまだマシ」ということになってしまいます。 こんなことは自動車でいうなら考えられない「リスク」ではないでしょうか。

 なぜ,「ないほうがマシ」な利用規約ができあがってしまうのでしょうか。 それは,みなさん「利用規約の作成」ということで法律の文章っぽく難しい言葉遣いで作成するせいで文章が複雑化してしまい,主語と述語が支離滅裂になってしまうからではないかと私は考えています。
 
このような場合には,アドバイスをしてあげたくても「意味がわかりません」としか書いてあげられません。
 「意味が通じない」ということは,「ないほうがまだマシ」ということです。

 たしかにネットビジネスにおいては,まだまだ「事故」は少ないのかもしれません。 ただし,それは「今はまだ少ない」のであって,今後もこのネットの利用者は増え続けるものでしょうから,人が増えるということはトラブルも増えるということですから,今後は,もっとトラブルが増えてくるのは確実なことなのではないでしょうか。

 そのような時代に,「無保険」で突入していくのか,「ないほうがマシな保険に入っている」状態で突入するのか,それとも「万全の体制で」突入していくのかは,人それぞれだとは思いますが,せめてネットビジネスにいざなうホームページ制作業者などは,「いい保険に入っておいたほうがいいよ」と言ってほしいですし,そういう業者が選ばれるようになってほしい,というのが私の願いだったりします。

証拠としての利用規約

 利用規約はリスクを軽減する条文の組み合わせで出来上がっています。 ですから,利用規約はリスクを軽減する目的で設置するものです。

 ところが,利用規約には,「証拠」として裁判などの際に役立てるという意味あいももっています。 それを示す例をひとつ挙げてみましょう。

「消費者保護制度」を悪用した「詐欺」にご注意!?

 先日,お客様から「最近PAYPALの『自動返金制度』を利用した詐欺事件があるようなのですが,自分の利用規約でそのリスクは回避できますか?」というお問い合わせをいただきました。
 詳しく聞いてみると,ネットショップで買い物をして,決済方法としてPAYPAL(世界中で活躍するオンライン決済代行会社のような会社です)を利用した顧客が,後日「購入した商品が届かないから売買自体をキャンセルしたい」とPAYPALに申し立てると,PAYPALのほうで無条件で契約をキャンセルにして顧客に返金してしまう,という話がある,というものでした。

 わたしのほうで,PAYPALのサイトを訪れて,規約やガイドラインなどを見ましたが,たしかにPAYPALには消費者保護プログラムというものがあって,消費者(ここでいうと顧客側)を不当な取引や請求から守るという制度が存在することがわかりました。

 しかし,PAYPALの規約やガイドラインに書かれている内容は,このお客様のいうような「無条件での返金やキャンセル」という「理不尽なもの」では到底ないのでは?とわたしは感じました。

 逆に,

売り手がお客様の住所に商品を発送したという証拠を提示した場合は,お客様が商品を受け取っていない場合でも,売り手に有利な判定を下すことがあります。(PAYPAL買い手保護プログラムに関するポリシーより抜粋)

とあるように,きちんとネットショップ側で発送を証明する資料や,取引内容について規定した利用規約を証拠としてPAYPALに提示できれば決してネットショップにだけ著しく不利な裁定を下すわけではない,ということもわかりました。

 以上のことから判断すると,多くのネットショップがPAYPALからの証拠の提示に応じられなかったか,又は提示した証拠がPAYPALが期待する内容のものではなかったために,消費者に一方的に有利な裁定を下した,というのが真実なようです。

原因はネットショップオーナーにある場合も

 このような消費者保護制度を導入しているのはPAYPALだけではないと思います。 ただ,PAYPALは世界中で活躍する決済代行会社ですから,アメリカやヨーロッパといったオンライン取引の先進国のルールに従った商取引を行っているので,日本のネットショップの商取引に対する考え方,規約に対する考え方では通用しない部分が目立ってしまうのだと考えられます。

 上の顧客からのクレームについても,大部分は故意によるものではない苦情だとは思いますが,中には,このような日本のネットショップの規約や取引に関する脆弱性を知りながら悪用する輩もいないとは限りません。
 ただ,このような制度を悪用する輩がやりたいようにできるのも日本のネットショップオーナーのリスクに対する認識不足という現実があってこそだと思います。

 いずれにしても,嘆かわしいことではありますが,ネットショップを経営するオーナーさんにこのようなリスクに対する危機感が薄いということがこのような都市伝説のような事態を招いている可能性が高いかと思います。

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